SPACE-U

紙・黒鉛・言葉
福田尚代展

2007年2月3日(土)〜2月17日(土)
12:00〜22:00

 ──そなた舞い 歌うよ詩人 辞書うたう 今だ謎──
  昨年に引き続き上の回文がもとになって着手した作品の第三回目の展示である。
 広辞苑の一ページ、一ページを塗りつぶすことで闇の中に意味と響きがあることが示唆される。塗り残された処は、相対的に発光していることになるが、このはたらきの彼方に居る福田の脳内の発光と意識するを浮き彫りにしている。「祈り」がそこに在る、というような作品の途中に立ち会うことは、自意識の成長を照らす鏡となるだろか。

タカユキオバナ 

作者は辞書を塗りつぶして行く。ただし見開き一面に対して常に二つ、語を選んで塗り残す。作者によれば、二つの語の間に救いあるいは希望が生じるよう選ぶという。この判断基準は作者の主観であり、既存の言語ゲームや呪術類との関連もない。ここで作者は辞書を、世界全体の象徴と仮定しているが、ほとんどの語を黒鉛で塗りつぶすという行為は、世界のほとんどを否定するという意味ではない。あくまで選択を強く引き立てるためにスポットライトを照射しているのだ。こうして選ばれた言葉らは、開いたページの上に白く浮かび上がり、それぞれ独立した極小の物語を形成する。結果として辞書は、たくさんの小さな物語を導くキーワードのリストへと次第に変貌して行く。

 過去に回文を導入した作品を多数発表している作者だが、この作品では、彼女の回文がどのようにして作られて行くのか、その方法の一端をうかがい知ることができる。作者のこうした行為は、おそらく一種の彫刻なのだ。ただし、ここで切削を加えられる素材は木や石のように具体的でなく、削られて生じる形も、直接は目に見えない。それは、ある位相空間の中に浮かび上がる造形物である。語の音、意味、隣接、そうした関係が作り出す抽象的な空間の中で、作者は作業する。こうした作業は、造形行為としてはいくらか奇妙に見えるかも知れないが、私達が現代社会の内部で日々行っている日常的行為と相照らしてみるなら、奇妙なところは少しもない、むしろ親しみやすい行為と感じられる。

 作者が語の位相空間の中に造り出した諸形象は、いつか総体として一つの大きな物語を織り上げる事になるのか、それとも、同じ視線で世界の意味を照射する後代の目に資すべく、一つの蒐集結果として残されるのか。それは今のところまだわからない。

火田七尾 

 

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